こどもは知っている

月曜日の朝。
門のところでこどもたちを迎えながら、園庭で遊ぶ人たちを見守っているわたしに、
「これ!」と、目を輝かせてみゆうちゃんが差し出したのは、すべすべのどろだんご。
「すごいね!すべすべだね!」
わたしは、そうっとそのおだんごを触らせてもらいながら言いました。
「どろあそびしたときからつくってたんだ。」
それは、先週の金曜日のこと。
ひまわりさんが全員でどろあそびをした時のことを言っているのでした。

その時でした。
トコトコとももぐみの男の子が近づいてきて、ぱっとそのおだんごを掴んだとおもったら、
反対側の木の根っこめがけてバンッ!と投げつけたのです。
おだんごは、バラバラに砕けてしまいました。
「えーーーっ?!」
わたしは、そんな声を出したと思いますが、みゆうちゃんは、というと、
口と目を見開いたまま、声も出しませんでした。
タタタタタ・・・・・と、走り去る男の子。
わたしは、どうなるのか・・・・と思いながらもみゆうちゃんの気持ちを思って涙がにじんできました。
「みゆうちゃん、怒れ!」・・・心の中ではそう叫んでいましたが、
みゆうちゃんも固まったまま、いや、もしかしたら男の子がそれからどうするのか、見守っていたのかもしれません。
黙ってまた、一緒にどろだんごを磨いていたあいなちゃんのそばに座り込んだのでした。
男の子は、逃げるわけでもなくみゆちゃんのそばをウロウロ。
みゆうちゃんは、男の子を見ることもなく、わたしに訴えることもなく次のあそびを考えているようでした。
わたしは、もやもやした気持ちのまま、ことの成り行きを見守ろうと思いました。

さて、しばらくしてみゆうjちゃんは、ひまわりぐみの友達と一緒に『カップケーキ』を磨いていました。
どろをプラスチックのカップに入れて、上の部分に砂をかけながら、磨いていく遊びです。
わたしが、そっとみゆうちゃんの隣に座って、
「ぴかぴかのカップだんごだね。」と、話しかけると、
「カップケーキ!」と、訂正されてしまいました。
「あ、ごめんごめん。・・・・あのね、さっきどろだんご壊されたとき、何にも言わなかったよねえ」
「うん。」
「あっ!!!て、口が開いてたよね。びっくりした?」
「うん。」
「わたし、すごく悲しかったよ。・・・どうしてあんなことするんだろうね。」
「じぶんのものだとおもったんじゃない?」
「・・・・・・そおかあ。じぶんのじゃないのにね。みゆうちゃんが一生懸命作ったのにね。・・・・・・
自分のじゃない、ていつかわかるのかなあ・・・」
「おしえてあげないとわからないとおもう。」
「・・・・・・誰が教えればいいと思う?」と、尋ねてみました。
大切などろだんごを勝手に壊されたら、「やめてよう!!!」と、激怒してもいいのに、
何もしなかったみゆうちゃんは、我慢をしながら、先生が怒ってくれればいいのに、と思っていたのかを知りたかったのです。
沈黙が続きました。
わたしは待ちました。
そして、みゆうちゃんの答えは、
「だれでもいいとおもう。」でした。

なんて、柔らかな心・・・と、感心しながら、わたしはこころの内をみゆうちゃんに打ち明けました。
「普通ね、先生がすぐに叱るでしょ。わたしもそうしようか、とも思ったけど、わたしが言っても、○○ちゃんは、
ほんとにはいけない、てことがわからない、と思ったんだ。だから、みゆうちゃんが、それは○○ちゃんのじゃないよ、みゆうのだよ、て教えてあげたらわかったかもね。」
「うん。」
そう言うと、みゆうちゃんはまたカップケーキ作りに戻っていきました。

さて、みゆうちゃんの「じぶんのものだとおもったから」という言葉は、
わたしに大きなことを教えてくれました。
その後、他のこどもがわたしのために作ってくれたおままごとのごちそうを
どうして、勝手に食べてしまうのか(食べる真似)・・・・・・
どうして、勝手に割り込もうとするのか・・・・・・
どうして、おもちゃを独り占めするのか・・・・
それらの行動は、相手の嫌なことをしてやれ、という攻撃的な行動として、否定的にみられがちですが、
実は、「すべては自分のもの」、と感じる幼い子特有の世界観に原因があるのでは、と気づかされました。
そして、そうではないことを誰かがタイミングよく教えてあげれば良い、それがみゆうちゃんの『教育法』でした。
みゆうちゃん、ありがとう。

自分を世界の中心に据えられることは、こどもにとってもおとなにとっても、とても大切なことだとおもいます。
かけがえのない自分の存在を片隅にしか感じられていないとしたら、とてもとても悲しいことです。
ですから、幼いこどもがまず、すべては自分のものだ、と、堂々と思い込んでいられることは、
すばらしいことだと思います。
そして、そのことを理解してあげ、優しく包み込む愛で誰かがタイミングよく、
世界には、自分だけではなく、他の人も一緒に生きているのだ、ということに気づかせてあげればいい。
ただそれだけです。




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[ 2015/05/16 12:21 ] 保育 | TB(-) | CM(-)